新学習指導要領の核「個別最適な学び」と「協働的な学び」とは?子どもへの影響と保護者の視点
導入
現代社会は急速な変化の中にあり、子どもたちが将来、自律的に生きる力を育むことの重要性が増しています。文部科学省が定めている学習指導要領は、この変化に対応すべく、およそ10年ごとに改訂されています。特に、2020年度から全面実施された新学習指導要領では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」がその核となり、子どもたちの学びのあり方が大きく変わろうとしています。
この二つの学びの概念は、保護者の皆様にとってはまだ馴染みが薄く、ご自身のお子様が実際にどのような授業を受けるようになるのか、具体的にイメージしにくいかもしれません。本記事では、この「個別最適な学び」と「協働的な学び」とは何かを分かりやすく解説し、それがお子様の学校生活や学習に具体的にどのような影響を与えるのか、そして保護者としてどのような点に注目し、どのように子どもをサポートできるかについてお伝えします。
政策の概要説明
新学習指導要領では、「生きる力」を育むことを基本理念とし、予測困難な未来社会を生きる子どもたちが「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」を重視しています。この理念を具現化する二つの柱が、「個別最適な学び」と「協働的な学び」です。
個別最適な学びとは
「個別最適な学び」とは、一人ひとりの子どもたちの学習履歴や習熟度、興味・関心、特性に応じて、最適な学びの機会を提供するという考え方です。従来の画一的な一斉授業だけでなく、例えば、デジタル教科書やタブレット端末(ICT機器)を活用して、子ども自身が自分のペースで学習を進めたり、特定の分野を深く掘り下げたりする活動が想定されています。
具体的には、以下のような学習形態が含まれます。 * 習熟度別学習: 特定の教科で理解度が異なる子どもたちに対し、それぞれのレベルに合った課題に取り組む機会を提供します。 * 興味・関心に応じた探究活動: 子ども自身がテーマを選び、調べ学習や実験を通して深く学ぶ時間を設けます。 * 個別課題への取り組み: ICT機器を活用し、AIドリルなどで個々の子どもの理解度に応じた問題に取り組むことも含まれます。
この学びの目的は、すべての子どもが取り残されることなく、自らの可能性を最大限に引き出し、主体的に学習に取り組む態度を育むことにあります。
協働的な学びとは
一方で「協働的な学び」とは、子どもたちが互いに意見を出し合い、対話を通じて学びを深めていく学習形態を指します。グループワークやディスカッション、プレゼンテーションなどを通して、他者の意見を聞き、自分の考えを整理し、表現する力を養うことを目指します。
具体的には、以下のような活動が想定されます。 * グループディスカッション: あるテーマについて小グループで話し合い、共通の理解や結論を目指します。 * 課題解決学習: グループで協力して具体的な課題に取り組み、解決策を導き出します。 * 発表・表現活動: 個々が調べた内容や考えを、グループやクラス全体に向けて発表し、質疑応答を通じて学びを深めます。
「協働的な学び」の目的は、多様な価値観を理解し、他者と協力しながら課題を解決する力、すなわちコミュニケーション能力やリーダーシップ、チームワークを育むことにあります。
これら二つの学びは、相反するものではなく、相互に補完し合う関係にあります。個別で深めた知識やスキルを協働の場で活かしたり、協働の場で得た気づきを個別の探究に繋げたりすることで、より深い学びが実現すると考えられています。
子どもへの具体的な影響
「個別最適な学び」と「協働的な学び」の推進は、お子様の学校生活や学習内容に、以下のような具体的な影響を与えることが考えられます。
学校生活・学習内容の変化
- 授業形態の多様化: 従来の一斉授業が中心だった教室風景は変化し、子どもたちが個々にタブレット端末で課題に取り組んだり、グループで活発に話し合ったりする時間が大きく増加すると予想されます。
- ICT機器の活用拡大: タブレット端末や学習用ソフトは、単なる補助ツールではなく、個々の学びを深め、また共有するための不可欠なツールとして日常的に活用されます。自宅での学習にもICTを活用する機会が増えるかもしれません。
- 主体的な学びの重視: 教科書の内容を「覚える」だけでなく、「なぜそうなるのか」「自分はどう考えるのか」といった問いを立て、自ら調べ、考え、表現する機会が増えます。
- コミュニケーション能力の向上: グループでの活動が増えることで、自分の意見を明確に伝え、相手の意見を傾聴し、合意形成を図る力が自然と養われるでしょう。
- 自己肯定感の育成: 個々のペースや特性に合わせた学びが進むことで、苦手な分野を克服しやすくなったり、得意な分野をさらに伸ばしたりする機会が増え、学びに対するモチベーションや自己肯定感の向上に繋がる可能性があります。
評価方法の変化
- 知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力、そして主体的に学習に取り組む態度など、多角的な視点からの評価がより重視される傾向が強まります。定期テストの点数だけでなく、授業中の発言やグループ活動への貢献度、探究活動の成果物なども評価の対象となることが考えられます。
- ポートフォリオ(学習成果を記録した個人のファイル)の活用など、子どもの成長を長期的に記録し、評価する仕組みが導入される可能性もあります。
受験・入試制度への影響
現時点での直接的な制度変更は少ないかもしれませんが、長期的に見ると、高校・大学入試においても、これらの学びの成果が評価されるようになる可能性が指摘されています。
- 思考力・判断力・表現力を問う問題の増加: 知識の暗記だけでなく、与えられた情報を分析し、論理的に考え、自分の言葉で表現する記述式の問題や、小論文、グループディスカッションなどが重視される可能性があります。
- 探究活動の成果の評価: 中学校での探究活動や高校での総合的な探求の時間の成果が、推薦入試や総合型選抜などで評価の対象となることが増えるかもしれません。
- 主体性の評価: 学校内外での自主的な活動や学びへの積極的な姿勢が、面接や書類審査で重視されるようになることも考えられます。
保護者が検討すべき点・対策
新しい学びの形に対応し、お子様の成長をサポートするために、保護者としていくつかの点を検討することができます。
1. 学校からの情報収集と理解
- 学校から配布されるプリントや学校説明会、保護者会などを通して、学校が具体的にどのような形で「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実践しているのか、積極的に情報を収集し、理解を深めることが重要です。
- 疑問点があれば、担任の先生や学校に相談し、不安を解消することも一案です。
2. 家庭での対話の機会を増やす
- お子様が学校でどのような学習をしているのか、何に興味を持ち、何に課題を感じているのか、日常的に会話する機会を増やすことを検討してください。
- 「今日はどんなことを学んだの?」「〇〇についてどう思った?」など、具体的な内容について質問し、お子様が自分の考えを言語化する練習を促すことは、思考力や表現力を育む上で役立つでしょう。
3. 主体性を尊重する環境づくり
- 家庭でも、お子様が自分で考え、自分で行動する機会を与えることを意識してください。例えば、お手伝いの内容を自分で選ばせる、週末の過ごし方を話し合って決めるなど、小さなことから自主性を育むことができます。
- 何か問題に直面したときに、すぐに答えを教えるのではなく、「どうしたら解決できると思う?」と一緒に考える姿勢を示すことも有効です。
4. ICT活用への理解とルール作り
- GIGAスクール構想により、多くのお子様が学習用タブレットを所有し、自宅に持ち帰る機会が増えています。ICT機器は学びを深める有効なツールですが、利用時間や利用内容について、家庭内で明確なルールを話し合い、適切に活用できるよう見守ることが大切です。
- デジタルリテラシーを高めるためにも、保護者自身がICTについて理解を深めることも考えられます。
5. 多様な学びの機会の検討
- 学校での学びだけでなく、家庭学習や習い事においても、単なる知識の暗記にとどまらず、探求的な要素や体験学習が含まれるものも検討の視野に入れることが一案です。
- 地域のイベントや博物館、図書館などを活用し、お子様の興味・関心を広げる機会を提供することも考えられます。
まとめ
新学習指導要領が目指す「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、子どもたちが多様な価値観の中で自らの可能性を広げ、未来をたくましく生き抜くために必要な力を育むための重要な取り組みです。
この変化は、子どもたちの学習方法や評価のあり方、さらには将来の進路選択にも影響を与えうるものです。保護者の皆様におかれましては、この新しい学びのコンセプトを理解し、学校との連携を密にしながら、お子様が主体的に学びに向かう姿勢を穏やかに見守り、支えていくことが求められます。
常に最新の情報にアンテナを張り、お子様の学びのプロセスに関心を持つことで、変化の時代における子育てをより豊かで実りあるものに繋げることができるでしょう。